私達はこれまでも、武井守成氏の作品を紹介し続けてまいりました。氏の作品は、その短い楽曲の中に、日本の伝統 的心情をうたい込み、しかもそのすべてを語り尽しているという点で、我国独特の詩歌の形態である俳句・短歌にも通 ずる所があると思われます。 今宵は、初期及び中期の作品の中から、未発表のものを含めて、四曲程選びお聴き戴きます。 「木の実は躍る」 op.70 1942.9.1 作者の言葉……「堅い小さな実が木から落ちてはね返り転がる状態の図案化。描写ではない。」 昭和17年11月26日初演。 「ぬれる一輪の花」op.43 1932.9.30 作者の言葉……「一輪の花のかすかにゆらぐ幻想を主観とせるもの 昭和7年11月25日初演。 「雨とコ ス モ ス」 oP.49 1941.1 作者の言葉……「庭先の垣の際に、丈高い一本のコスモスがどうしたことか咲き残っている。しめやかに……とは云 え音を立てて降る雨に花びら一つ動かさずに、空を仰いで清らかに立っている。それは不思議にも古典的で美しい姿で あった。」 昭和6年6月4日初演。 「夏 の 組 曲」 op.31 1928.6. 1.宵雨の町 3.海に歌 う 2.風 鈴 屋 4.花火見る子ら 作者の言葉……「第一章、初夏の下町の気分表現で描写ではない。第二章、風鈴屋の感情描写で、風鈴の擬音はヮキ 役である。第三章、風なく晴れ渡った海辺2)朝、静かな海に向って歌う感じ。第四章、花火の夜を待つ子供達の楽しさ と焦だたしさ。打上げられた花火の五彩のひらめき。」 |
(第63回定演パンフより)