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組曲「初夏に寄す」について

 

堀清隆氏は同志社大学マンドリンクラブの0・Bで、在学中より作曲、編曲を手がけ、またギター奏者としても活躍
された。卒業後、宮内省勤めのかたわら,オーケストラ・シンフオニカ・タケイの常任指揮者として、斯界の発展に寄
与され次々と作品を発表されている。昭和29年居を京都に移され、現在は京都御所史料編集室で、京都御所に関する史
料編集に当っておられる。氏の作品は本曲の他、「夜に寄す」「陽炎」「すべては去りぬの七つの変葵曲」その他数十
余曲に及ぶ。ギター曲も多い。組曲「初夏に寄す」は、昭和4年に出来あがったもので、三楽章から成っていたが、後
で全面的に改編され、更に第四楽章が加えられ、京都の夏の風物誌を描いた作品となっている。しかし本日はその改作
の三楽章をお送りします。

第一楽章 小舟にて                           En Bateau‐- Barcarolle-
舟唄の形式で書かれたセロで始まるイ長調の静かなメロディーは、第一マンドリンに引き継がれ、ピアノ・トライア
ングルの入る中間部コン・グラツイア(優美に)に至る。更にホ長調に転調されて、最初のメロディーが再び流れる。
舟遊びでもしているような、夏ののびのびとした感じがうまく表現されている。…………と急にメロディーは、異様な
不協和音の流れの中に入る。まるで小舟が、こんもりとした薮のトンネルにでも入ったかの様に。しばらくの彷徨後、
ラレンタンド(ゆっくりと)して、明るい協和音に出て終わる。

第二楽章 行   列                                  Cortage
京都の三大祭の内、葵祭に題材をとったもので、御所車が都大路をゆったりと進んで行く情景を描写したもの。
まずギターの奏でる規則正しいリズムの中に古式豊かな行列がやってくる。フリュートの澄んだメロディー……・・・。
そして行列はいよいよ近く、牛車(ぎっしゃ)のキシリの音が聞こえるまで。そして今や目の前を。華やかに、おごそ
かに・・・………。小シンバルとタンブリンが気分を盛り上げる。やがて行列はかすかな足音を残しつつ遠ざかる。平安朝
の宮廷風俗をしのばせる華麗な旋律である。



繁三楽章 け し畑                            Tempo Habanera
ハバネラのリズムで、夏のけし畑の様を描いている。毒々しいけしの鮮やかな色が目に浮かぶ。この楽章は複合三部
形式で書かれ、トリオ(中間部)では、セロ・ローネ・フルート・ドラ・バスクラリネツトが、神秘なメローディを奏
でる。鮮やかなけしが、その毒を誇るかの様に。更にルバ-ト(盗んだテンポで)でlst マンドリンのソロ・セロのソロ
・ギター二重秦と受け継がれ、D.S.して、第一部を繰り返し、Fine に入る。
なおこの楽章のための、高田三九三氏の歌詞の一部を紹介します。


  真夏の日の光  まともに受け
  あかあかと燃えたつ  けし畑
  そよと吹く風もなく  陽炎立ち
  むせかえる炎熱よ .息も苦し
  日は照るよ  じりじりと照る
  乾ける土の ひからびし色




(第62回定演パンフより)

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